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広島高等裁判所 昭和39年(く)34号 決定

少年 R・T(昭二四・六・九生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、記録に編綴してある抗告申立書記載のとおりであつて、これを要するに原決定が、本件のような過失の事犯によつて、しかも被害者と円満に示談も成立しているのに、少年を初等少年院に送致する決定をしたのは、著しく不当な処分であるというのである。しかしながら、本件少年保護事件記録並びに調査記録によると、少年は小学校卒業後、○○朝鮮中高級学校中級部に進学したが、朝鮮語に未熟であつたため、種々支障を来たし学習の意欲を失い、学業を怠つて無為に日を送り、家人の注意を嫌つて数回に亘り家出をしているうちに、昭和三八年八月一九日住居侵入窃盗の非行を犯したため、同年一一月四日広島家庭裁判所において審判不開始の決定を受けたのであるが、その数日後の同月七日から翌昭和三九年二月中旬頃までの間に、横領一回、窃盗同未遂各一回、傷害二回の外外国人登録法違反の非行を重ね、昭和三九年四月二日、前同裁判所において保護観察の処分を受けたにもかかわらず、その後数箇月にして本件のような無謀な無免許運転をし、重過失傷害の非行を犯したもので(被害の弁償も示談成立の事実もない)、広島鑑別所の鑑別結果等によつても、原決定書記載のような性格的な偏向や下良な行状態度があつて、社会的適応性に乏しく、家庭も貧困で病弱な者が多いため日々の生業に追われ、少年の補導に多くを期待し得ない実状にあることが認められるのである。右のような少年の生育並びに非行歴を参酌するときは、たとい本件非行の主体は過失犯ではあつても、少年はこの際初等少年院に収容し、所定の教科を受けまた適切な補導訓練により、その性格行状の改善矯正を図る必要があるものと思料されるのである。されば右と結論を同じうする原決定の処分は相当といわねばならない。

よつて少年法第三三条第一項後段、少年審判規則第五〇条に従い、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 村木友市 判事 幸田輝治 判事 藤原吉備彦)

参考

原審決定(広島家裁 昭三九(少)一六一二号 昭三九・九・一四決定)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

罪となるべき事実

少年は

一、公安委員会の運転免許を受けないで昭和三九年七月○○日午後一時四〇分頃、広島市○○町△△△×××○木○○代万前附近道路において軽自動二輪車(一広え○○○○号)を運転し

二、当時一五歳一ヵ月で未だ運転免許も取得出来ず、且つ運転経験も乏しく、運転技術も未熟であつたから、人車の往来のある道路においては自動車類の運転は為すべきでないにかかわらず、前同日時、場所において前同車を時速約四〇キロメートルで漫然と運転した重大な過失により、道路を左より右に横断しようとした○木○○代(五三才)を進路前方約二六五メートルの地点に発見、直ちにハンドルを右に切り避けんとしたが間に合わず、自車の左側ステップを同女に接触させ、その場に転倒させ、因つて同人に約二ヵ月の入院加療を要する左下腿複雑骨折の傷害を与え

たものである。

適条

1、道路交通法第六四条、第一一八条第一項第一号

2、刑法第二一一条

主たる問題点

一、昭和三九年四月二日当裁判所において保護観察に付されたばかりである。

二、少年は一五歳で、中学三年生として義務教育、修学途上にあるべきであるに拘らず、既に学習意欲を失い、さりとて就労するでもなく、無為徒食の日を送りパチンコ店等に出入しているものである。

三、主観的、独善的で協調性なく、他人の意見を聞く素直さがなく、反発的な言動に出る傾向が強く、又文身等を施し、チンピラ染みた言動を好み、日頃から不良交友、飲酒外泊等に耽り、不良行為に対する耐性が弱く、罪障感、道徳感が乏しい。

四、無免許運転の危険性、事故による結果の重大性の認識は皆無で、鑑別所内の態度も不良である。

五、保護者等においても、職につきたくない、遊ばしてくれという少年の我儘を許すのみか、むしろ少年に迎合する態度を採り、保護監督は何等なされていない。

六、本件は、単なる無免許運転及び重過失傷害事件として観察すべきでなく、上記の如き本少年の生活態度の一具現として把握すべきである。

よつて、この際初等少年院に収容して義務教育を修予させる(少年は小学校六年生にして言語が理解できないにも拘らず、保護者の希望で朝鮮人小学校に転校し、中学二年生中途で退学している。)とともに、これまでの生活態度を反省させて道徳感情を涵養させ、勤労意欲を持たせる必要性があると思料し、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項により主分のとおり決定する。

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